遺留分とは、民法で定められている一定の相続人が最低限相続できる財産のことをいいます。 遺言書を作成すれば、法定相続人以外の者に全財産を遺贈することができます。 しかし、財産が相続できなかった家族は、住む家を失い、生活もできなくなる という逆の事態も考えられます。このような相続人にとって不利益な事態を防ぐため、規定された制度が遺留分です。
また、財産を相続する立場からだけでなく、遺言を作成する方にとっても、遺留分に留意しなければなりません。
※2018年の民法改正により、遺留分減殺請求に大きな改正が実施されました。2019年7月12日までに施行される予定ですので、注意が必要です。
どういうことでしょうか?
☆☆参考☆☆相続人と相続割合等に関する記事はこちら
◆相続人とは?知っておかないと相続が「争族」に!?
1.各相続人の遺留分はどれくらい?
2.遺留分減殺請求
3.遺留分の基礎財産
4.遺留分減殺の順序
5.遺留分の放棄
遺留分に配慮しないとトラブルに!?
例えば、被相続人が相続人間の遺産相続トラブルを防止するために前もって遺言を作成したつもりであっても、遺留分を考慮しないで作成してしまった遺言は、のちに相続人間でトラブルになる可能性があるということです。
遺留分は、法定相続人のうち、配偶者、子、直系尊属(父・母・祖父母・孫)に認められています。兄弟姉妹に遺留分はありません。
遺留分を侵害した遺言は、直ちに遺言すべてが無効になるわけではありません。 遺留分減殺請求権が行使されたときに、その侵害された部分について無効になります。また、所定の手続きを踏む必要がありま す。
自動的にもらえるわけではないことに注意が必要です。
1.各相続人の遺留分はどれくらい?
各相続人の遺留分は以下の通りです。
2.遺留分減殺請求
専門的な言葉になりますが、遺留分が侵害された場合に、侵害された額を取り戻すための権利のことを遺留分減殺(げんさい)請求、といいます。
Q:誰に対して遺留分の請求をするのでしょうか?
遺留分減殺請求は、遺留分を超える贈与・遺贈を受けた相続人に対し請求します。つまり当事者に対して直接請求することになります。
Q:その効果は?
遺留分は生前贈与が行われているか、遺言が残されていることが前提で、その時に一定割合に達していない場合に請求する権利です。あくまで遺留分を超える部分に対してであり、法定相続分を超える贈与・遺贈を受けた相続人に対し てではない点に注意します。相続人間で遺産分割協議成立後に、自分の取得財産が遺留分に満たないとして、 他の相続人に遺留分減殺請求をすることはできません。
遺留分減殺請求が行われると、その結果、割合的に減殺されることとなり、自社株式や事業用資産が他の相続人との共有となり、共有関係の解消をめぐって新たな紛争を生じさせる結果となります。
遺留分減殺請求には時効があります。
遺留分減殺請求権は、遺留分権利者が相続開始・減殺すべき贈与・遺贈のいずれかがあったことを知った時から 1 年が経過すると、時効によって消滅します。
※「減殺すべき贈与または遺贈を知った時」とは、単にその贈与や遺贈がなさ れた事実を知ったというだけではなく、その贈与等によって自分の遺留分額が 侵害され、さらに減殺請求の対象となるということまで認識している必要があ ると解されています。
たとえ、相続開始等から1年以上が経過していようとも、相続開始等を知ら ないままであれば、時効によって請求権が消滅することはありません。ただし、相続開始から10 年経過すると、除斥期間によって請求権も消滅しま す。
※平成30年の民法改正・・・2019年7月12日までに施行予定
改正法では、この取扱いを抜本的に見直し、遺留分権利者は、遺留分侵害額に相当する金銭の支払いのみを請求できることとされました(遺留分侵害額請求)。
金銭請求に一本化されたことで、不動産などをめぐる複雑な共有関係が生じなくなるため、遺留分に基づく権利が主張しやすくなり、権利の処理も簡単になることが期待できます。
なお、金銭で支払わなければならないことに配慮して、贈与等を受けた者は、この侵害額の支払いを一定期間猶予してもらうよう、裁判所に請求できることとされています。
Q:どのように請求するのでしょうか?
遺留分減殺請求権を行使する場合、遺留分を超える遺贈などを受けた者に対す る意思表示によってすることができます。ただし、後日のトラブルを考慮して、事後の立証の便宜のため、配達証明付内容証明郵便により行うのが通常です。
3.遺留分の基礎財産
遺留分の基礎財産は、被相続人の死亡時の財産に贈与の額を相続開始時の価値で評価して加え、債務を控除したものとなります。
※平成30年の民法改正・・・2019年7月12日までに施行予定
相続人に対する贈与(特別受益にあたるもの)について、相続開始前 10 年間にされたものに限って算入するとし、現行の取扱いよりその範囲を限定することとされました。
加算する贈与の額
原則として、相続開始前 1 年以内のものに限られます。 ただし、当事者双方が、遺留分権利者に損害を与えることを知りつつ贈与を行ったとき、相続人が結婚や養子縁組のため又は生計の資本として贈与を受けた場合などには、例外的に1 年を超えたものでも加算の対象となります。
特別受益
生前に自社株や金銭等の贈与など、特別の利益を受けていた相続人がいる場合は、遺産分割の際に受け取る財産の「前渡し」を受けていたものとして扱われ、この前渡し分を「特別受益」といいます。
「特別受益」は相続財産に持ち戻して計算し、生前贈与を受けていた相続人は最終的に相続財産から生前贈与分を差引かれて遺産分割されることとなります。
被相続人からの贈与が特別受益とみなされる場合、その贈与は、相続開始よりも相当以前 になされたものであっても、原則として無条件に遺留分算定の基礎となり、特別受益分を加算して、遺留分侵害の有無を判断するとしています。
すなわち、相続人が特別受益を受けている場合には、何年前でもさかのぼり、 特別受益分を相続時に価値に換算して、相続財産に持ち戻すことになります。視点を変えると、相続人以外の者への贈与は、1年以内の贈与だけが持ち戻しの対象となるということになります。
※平成30年の民法改正・・・2019年7月12日までに施行予定
遺留分侵害額請求を受けた受遺者・受贈者が遺留分権利者の相続債務を消滅させる行為(弁済など)をしていた場合、意思表示により、その限度で金銭債務を消滅させることができるとされました。
4.遺留分減殺の順序
遺留分の侵害が生じている遺贈(死後にもらう)あるいは贈与(生きている間にもらう)が一つであれば、その遺贈や贈与のみが遺留分減殺請求の対象となります。
遺贈と贈与がある場合
遺贈(死後にもらう)と贈与(生きている間にもらう)がある場合、遺留分権利者は、 まず死後に発生する遺贈を減殺した後でなければ贈与を減殺することができません。
複数の贈与がある場合
贈与が複数ある場合、後の贈与(相続開始時に近いもの)から前の贈与に対して順次減殺を行うと規定されています。贈与の前後の判断は、登記、登録の日時ではなく、契約の日時によって行われます。
このように民法では、被相続人が亡くなってから過去にさかのぼり、もらった時期が新しい順番に減殺請求をすることで、取引の安全との調和をはかっています。
5.遺留分の放棄
遺留分は放棄することができます。
考えられるケースとして、被相続人が、遺言書通りに相続させる為に、生前中一定の近親者である相続人に、遺留分の放棄をしてもらうことなどが考えられます。死後に発生しかねないトラブルの芽を事前に摘んでおこうという配慮です。
被相続人の相続開始後でも生前でも、遺留分を放棄することができます。生前に放棄する場合は、家庭裁判所の許可が必要で、「遺留分放棄の許可の審判」を請求することになります。
遺留分と相続分を混合しないよう注意
遺留分は、被相続人の生前に放棄することができますが、相続分は生前に放棄することができません。
また、遺留分の放棄が認められても、相続放棄をしたことにはなりません。遺 留分を放棄した者も、相続が開始すると相続人になります。被相続人に多額の債務がある場合など、何らかの事情により、相続をしたくな い場合は、相続放棄をする必要があります。 遺留分の放棄と相続放棄は別です。注意しましょう。
遺留分の放棄基準 遺留分を放棄する場合、以下を満たしていなければ、家庭裁判所の許可を受けることができません。
・放棄が本人の自由意思に基づくものであるか。
・放棄の理由に合理性と必要性があるか。
・代償性があるか。(特別受益があるか、放棄と引き換えに現金を貰う等の代償 があるか等)
遺留分の放棄をしてもらう際の留意点
・必ず遺言書を作成します。遺言がないと、遺留分の放棄は相続の放棄ではないので、遺産分割協議が必要となります。
・遺言書に遺言執行者を指定しておきます。
※遺言執行者とは…遺言の内容を実現する為に必要な行為や手続をする人のことです。
まとめ
思わぬ遺言によって、財産が相続できなかった場合に、その救済策として法的 にもらえる割合を遺留分が定められています。
その権利を行使するには、所定の手続きを踏む必要があります。遺言さえあれば、自分の意思通りに財産を相 続させることが出来ると思われていた方もいらっしゃるかもしれません。
それは、逆に残された家族間のトラブルを生んでしまう可能性すらはらんでいます。 不要な相続争いを避けるには、遺留分を放棄してもらうなど、前もって手続きを踏む必要があります。