財産管理・契約の代理人制度、成年後見制度の仕組みとその手続きとは?

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成年後見制度(せいねんこうけんにんせいど)はあまり聞き慣れない言葉かも しれません。例えば、認知症、知的障害、精神障害などの理由で、判断能力が 不十分な方々は、不動産や預貯金などの財産を管理したり、身のまわりの世話 のために介護などのサービスや施設への入所に関する契約を結んだり、遺産分割の協議をしたりする必要があっても、自分でこれらのことをするのが難しい 場合があります。

また、判断能力が不十分な方々にとって、不利益な契約であっても、よく判断 ができずに契約を結んでしまい、悪徳商法などの被害に遭うおそれもあります。 成年後見制度は、判断能力が不十分な方々(以下、本人)が財産の管理や契約 を適正に行い、不利益を被らないように、援助してくれる人を付ける制度です。 いわば、財産管理の代理人制度と言っても良いでしょう。

現行の成年後見制度の前は、民法における禁治産※および準禁治産の制度と いう制度がありましたが、平成12年(2000年)民法の改正とともに廃止され、 成年後見制度へと移行しました。

※禁治産…財産を治めることを禁ずること。

民法における禁治産および準禁治産の制度では、次のような問題点が指摘されていました。

これまでの制度とは?

  1. 対象者が比較的重い精神上の障害のある方に限定されていたため、軽度の認知症の方などは、契約などにおいて不利益を被るおそれがある。
  2. 効果が定型的に規定されており、柔軟性に欠ける。
  3. 禁治産および準禁治産の宣告を受けると、戸籍に記載されるため、制度の利用に抵抗感がある。
  4. 本人が婚姻している場合、支援する人は必ず配偶者となり、人数も1名に限定される。配偶者が高齢である場合や、複数の後見人が必要な場合に、支援が十分とはいえない。

制度の改正後..

以上のような問題点を踏まえて、平成12年4月1日に現行の成年後見制度がスタートしました。現行の制度は、「自己決定の尊重」の理念と、「本人の保護」の調和を目的として、より柔軟かつ弾力的で利用しやすい制度を創ることを目指して、次のような改正が行われました。

  1. 禁治産および準禁治産の制度を、「後見」、「保佐」。「補助」の制度に改め、名称も変わりました。これにより、軽度の精神上の障害のある方にも制度が利用できるようになりました。
  2. 適切に援助してくれる人の選任が可能になりました。本人の保護体制を充実するために、家庭裁判所が事案に応じて適切な人を選べるようになっています。援助してくれる人を複数選任することや、法人を選任することも可能になりました。
  3. 任意後見制度が創設されました。本人が判断能力が不十分になった場合に備えて、あらかじめ選んだ代理人に、代理権を与える契約を公正証書によって結んでおくものです。(詳しくは、以下で解説しています。)
  4. 成年後見登記制度が創設されました。禁治産および準禁治産の戸籍への記載に代えて、成年後見人などの権限および任意後見契約の内容などを登記して公示する成年後見登記制度が新設されました。(詳しくは、以下で解説しています。)

成年後見制度のイメージ

成年後見制度の種類

任意後見制度

任意後見制度は、本人に十分な判断能力があるうちに、将来、判断能力が不十分になった場合に備えて、あらかじめ選んだ代理人(任意後見人)に、財産管理、自分の生活、療養看護に関する事項について、代理権を与える契約(任意後見契約)を公証人の作成する公正証書によって結んでおくものです。

任意後見制度の手続の流れ

任意後見制度の手続き

  1. 信頼できる人(家族、友人、弁護士、司法書士などの専門家)と任意後見契約を締結
    公証人役場で「公正証書」を作成
    (ここ最近、軽い認知症の症状が見られるようになってきた…)
  2. 家庭裁判所に申立て
    家庭裁判所が選任した任意後見監督人が任意後見人の仕事をチェック
  3. 任意後見人が任意後見契約で定められた仕事(財産の管理など)を行う

任意項契約を結ぶにあたって、次のような費用がかかります。

  • 公正証書作成の基本手数料 11,000円
  • 登記嘱託手数料 1,400円
  • 法務局に納付する印紙代 2,600円

法定後見制度

法定後見制度は、本人が精神上の障害により判断能力が不十分となったときに、親族等※が家庭裁判所に審判の申立てをして、家庭裁判所が、援助者として成年後見人等(成年後見人、保佐人、補助人)を選任します。
※後見開始の審判の請求権者は本人、配偶者、4親等以内の親族、検察官、市町村長等。
本人の判断能力に応じて、①後見、②保佐、③補助の3つの制度があります。

法定後見制度における3つの制度

法定後見制度の3つの制度

  • 後見とは?

    「後見」の成年後見制度を利用することができるのは、自分の財産を管理したり処分したりすることが全くできない状態の人です。
    具体的には、重度の知的障害者・精神障害者・認知症高齢者などで、常に判断能力がなく、自分だけで物事を決定することが難しく、日常的な買い物も1人ではできない人などです。

  • 保佐とは?

    「保佐」の成年後見制度を利用することができるのは、重要な財産(土地や車など高額な物)を管理したり処分したりするには、常に援助が必要な人です。
    具体的には、知的・精神的障害のある人、認知症がある程度進行している高齢者など、判断能力が著しく不十分で、日常的な買い物くらいは自分でできますが、重要な契約などは難しいという人などです。

  • 補助とは?

    「補助」の成年後見制度を利用することができるのは、判断能力が不十分ながら自分で契約などはできますが、誰かに手伝ってもらったり、代わってもらう方がよいと思われる人です。
    具体的には、軽度の知的障害者・精神障害者・初期の認知症状態にある人などです。

法定後見制度における本人の同意

  1. 後見…本人の同意は不要とされています。
  2. 保佐…「後見」を利用する場合と同じく支援される人の同意は必要ありません。ただし、家庭裁判所によって保佐人に一定の代理する権限が認められたという場合には、その権限の悪用を防ぐため、本人の同意が必要です。
  3. 補助…本人の同意が必要です。

法定後見制度の手続の流れ

法定成年後見制度の手続き

  1. 家庭裁判所への申立て
  2. 家庭裁判所の調査官による事実の調査
    申立人、本人、成年後見人(保佐人、補助人)候補者が家庭裁判所に呼ばれ、事情を聞かれる
  3. 精神鑑定 ※実際に精神鑑定が行われるのは稀ケースです。申立て全体の約1割
  4. 審判
    申立書に記載した成年後見人(保佐人、補助人)候補者がそのまま選任されることが多いが、場合によっては家庭裁判所の判断によって弁護士や司法書士等が選任されることもある
  5. 審判の告知と通知
  6. 法定後見開始

申立てに必要な書類とかかる費用

  • 申立書
  • 診断書(成年後見用)
  • 申立手数料 1件につき800円分の収入印紙
  • 登記手数料 2,600円分の収入印紙
  • 郵便切手
  • 本人の戸籍謄本             など
    ※申し立ての必要な書類と費用は、事案によって多少異なる可能性があります。
    詳しくは、家庭裁判所に用意されている一覧表などでご確認ください。

成年後見人の役割・選任等

※以下の解説は、保佐人、補助人にも共通しています。

成年後見人の役割は、本人の意思を尊重し、かつ本人の心身の状態や生活状況に配慮しながら、本人に代わって、財産を管理したり、必要な契約を結んだりすることによって、本人を保護・支援することです。
成年後見人の仕事は、本人の財産管理や契約などの法律行為に関するものに限られており、食事の世話や実際の介護などは、一般に成年後見人の仕事ではありません。

成年後見人の選任は、家庭裁判所が、最も適任だと思われる人を選任します。本人が必要とする支援の内容などによっては、申立ての時に挙げられた候補者以外の人(弁護士、司法書士、社会福祉士等の専門職や福祉に関わる法人など)を選任することもあります。
ただし、一定の事由がある人は、成年後見人となることができません。一定の事由とは、本人に対して訴訟をしたことがある、破産者である、以前に成年後見人を辞めさせられたことがあるなどです。

複数の成年後見人の選任

複数の後見人を選任することが認められています。
複数の後見人の選任が認められた理由は、後見人の1人を親族にして、もう1人を法律家や福祉の専門家にするなど、複数の後見人の選任が認められることで、本人の手厚い保護が図れるという観点からです。
一方で、複数の後見人がいることで、後見人間での対立や混乱が生じるおそれがあります。この対立や混乱を避けるために、家庭裁判所は、各後見人の権限に関する定めや、すべての後見人が共同して権限を行使しなくてはならないなどという定めを、職権で設定することができます。

成年後見登記制度

成年後見登記制度とは、成年後見人などの権限や任意後見契約の内容などをコンピュータ・システムによって登記し、登記官が登記事項を証明した登記事項証明書(登記事項の証明書・登記されていないことの証明書)を発行することによって登記情報を開示する制度です。
※開示を請求できる人は、本人や成年後見人等などに限定されています。

次のようなときに登記がされます。

  1. 後見開始の審判がされたときや、任意後見契約の公正証書が作成されたときなどに、家庭裁判所または公証人からの嘱託によって登記されます。
  2. 登記されている本人・成年後見人などは、登記後に住所変更などにより、登記内容に変更が生じたときは「変更の登記」を申請します。
    また、本人の死亡などにより法定後見または任意後見が終了したときは「終了の登記」を申請します。

登記事項の証明書・登記されていないことの証明書を利用するケースとして、例えば、成年後見人が、本人に代わって財産を売買するときや、介護サービス提供契約などを締結するときに、取引相手に対し登記事項の証明書を提示することによって、その権限などを確認してもらうという利用方法が考えられます。
また、成年後見(法定後見・任意後見)を受けていない人は、自分が登記されていないことの証明書の交付を受けることができます。

取り扱い窓口
東京法務局の後見登録課で、全国の成年後見登記事務を取り扱っています。
なお、登記事務、窓口での証明書交付は、東京法務局及び各地法務局・地方法務局戸籍課でも取り扱っています。

まとめ

超高齢化社会の到来にともない、ご自身の代わりに契約周りや財産管理をしてもらう成年後見制度は今後ますます増えていくでしょう。元気なうちに、ご自身で代理人を選ぶ任意後見制度と、すでに判断能力が低下している方の援助者になる、法定成年後見制度の2つがありました。手続きについてよく理解をし ておきましょう。

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